第二章<味方>

二月

「起きて下さい。朝ですよ。学校に遅刻してしますよ」

「ん…。へ!?」
最近聞き慣れないがどこか懐かしい声がした。
今朝は珍しく和食の香りが部屋に充満していた。

「あ、やっと起きましたね」
声を掛けてきた女性は久しく目にしていなかったメイド服を着ていた。

「椎子さん!」

「はい、おはようございます。おぼっちゃま」
そう言うと椎子は深々と頭を下げた。

「もうそんなに経ったんだ…」
ちこりと結婚してから椎子には今までの苦労の労いとしてお休みしていもらっていた。
一樹にとってはただ二人きりの時間を過ごしたいと言う理由も混ざっていた。

「今、朝食が出来ますからね。それより、ちこり様はどうなされたんですか?」
トントンとリズミカルに包丁の音を響かせながら椎子は尋ねた。

「……」
一月前の出来事を思い出し和らいでいた胸の痛みを感じた。

「どうなさいました?」

「出て行くって言って出て行っちゃった」
一樹は努めて明るく答えた。

「あ、ケンカでもなさったんですか?仕方ありませんねぇ」
そう言いながら椎子は朝食を運んできた。

「まぁ…そんなとこなのかな」
その様子に椎子は違和感を覚えた。
いつものように一樹が原因でちこりが居ないわけではないらしい。

「ふぅ、さてと。今日からまたよろしくお願いします、おぼっちゃま」

「え?あ、うん。助かるよ、椎子さんが居てくれると」
力無く朝食を済ませると一樹は学生服に着替えた。
鞄を持って玄関に出る。

「おぼっちゃま!」
椎子が呼び止めた。

「なに?」

「んもう、何があったのか存じませんがそんなんじゃいけませんよ!それとお弁当忘れてます!」
腰に手を当てて椎子が言った。

「あ…ごめん」
弁当箱を鞄に入れて一樹は歩き出した。

「いってらっしゃいませ、おぼっちゃま」

「いってきます…」





いつもの事であったが最近は特に授業を聞く気にはならなかった。
むしろ、寝ていないだけ教師に対する評価は良かったようだ。

4時限目が終わる。
一樹は弁当箱を持って屋上に行った。
この時季に屋上に来る学生は居ない。
2月とは言えまだ肌寒いこの季節に暖房の効いた教室を出て外で食べる人間は道理からしてありえないからである。

「はぁ〜っ…」
白い溜息をつきながら弁当箱を開く。
中にはちこりが作ってくれた弁当より遥かに色彩の良い中身が詰まっていた。
口に運ぼうとした時、屋上から階段を繋ぐ扉が鈍い音と共に開いた。
制服からして女生徒のようだった。

「安芸津君」
女生徒は花梨だった。
扉を開いた拍子に風が吸い込まれるように通り過ぎ花梨の長髪を煽った。

「篠沢…どうしてここに?」
一頻り冷風を吸い込んだ校舎内が満足した様に風を止めると花梨は髪とスカートを正し一樹に向き直った。

「安芸津君元気ないから…どうしたのかなって。隣でご一緒していいかしら?」
そう言うと花梨は小さなお弁当箱をついっと持ち上げた。

「別に構わないけど。…俺ってそんな風に見える?」

「他の人は解らないかもしれない。いつもの安芸津君に見えるかもしれない。でも、私には…少なくとも私にはいつもと違う風に見える」
一樹の横に腰掛けお弁当箱を開く手を止めて花梨は言った。

「そっかぁ。何時ごろからそう見えてたの?」

「最初に思ったのは初登校した日…。最初は遊び疲れかなって思ってた…。けど、その後もずっと安芸津君は変わらなかった」

「はぁ。篠沢には全部お見通しって訳か…」
がっくり肩を落として一樹は言った。

「聞いて良かったらでいいんだけど…安芸津君が悩んでる原因て、奥さんの事?」

「まぁね…。篠沢にこれ以上の隠し事しても無駄そうだから言うよ」
事の始まりから今に至るまで、一樹は思い出せる全ての事を花梨に話して聞かせた。
花梨は時折困ったような顔をしていたがそれでも一樹の話を真剣に聞いていた。
同じ女の子の彼女にも理解の出来ない箇所があるようだ。

「う〜ん。そうかぁ。安芸津君にも思い当たる節が無いんじゃ原因がなんだか解らないわねぇ」

「愚痴っぽくなっちゃったけど正直原因がなんだか全く解らないんだよね、俺自身…」

「ごめんね、あまり力になれなくて」

「そんなことないよ。篠沢に話して少し楽になった気がするし」
そう言って一樹は花梨に微笑んだ。

「少しでも力になれたのなら、私は満足なんだけど。ねぇ、最後に一つだけ聞かせて」

「なに?」

「奥さんの事、愛してる?」

「いきなりだな…」

「答えて」
花梨は真剣に一樹を見据えた。
一樹はその顔を見て諦めた様に小さく息を吐いた。

「勿論。愛してるよ」
顔を真っ赤にしながら一樹は答えた。
その言葉には照れ以外なにも含まれない、一樹の気持ちでもあった。

「それなら大丈夫よ。きっと彼女は戻ってくるわ」
花梨もその言葉にニコリと微笑みを返した。
花梨の大きな瞳の中に彼女の言った言葉がきっと真実であるはずと言う思いが一樹には見えるようだった。

「じゃあ、私はもう行くわね」
そう言ってお弁当箱を布に包むと花梨は歩き出した。

「あ…篠沢!」

「なぁに?安芸津君」

「その…ありがとうな」

「フフフッ、私はいつでも安芸津君の味方だよっ!」
そう言い残して花梨は校舎の中へ消えていった。

まだ肌寒い季節の昼食だった。

*****つづく*****

はい第2週目でございます…。
椎子さんと花梨が出てます…。
まぁそれは置いといてなんと言いましょうか…
はぴべるをやった方も又は絵は見たことあるよって方にも
シーンを思い浮かべて読んでいただければいいなぁ、なーんて…。
愛って何さ!って怒られてもあちきは責任とれませんよ…。
ではでは…
P・S:起承転結の”承”ってなんですか?(ぇ

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